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キネティクス(反応速度)シミュレーション

 理論計算(量子化学計算)による解析より得られた \( \Delta G^\ddagger \) (活性化自由エネルギー) 及び、\( \Delta G_{rxn}\) (反応自由エネルギー) により、反応速度定数を計算し、反応速度定数による基質の濃度比変化を時間積分することで、反応の減衰及び基質の最終濃度比を計算するシミュレーションが可能です。
 従来は、特に、多段階反応や競合反応が絡み合う反応系の場合、系中の平衡関係は複雑となり、反応時間や最終生成比を正しく求めることは困難でした。本シミュレーションでは、理論計算結果を適用することにより、逆反応を含めた各反応の速度差を精密に計算することができ、反応時間や最終生成比を正しく求めることを実現しています。
 このシミュレーションにより、反応物の半減期反応平衡化までの反応時間生成物の最終生成比や選択率、反応時間や生成比の温度依存性などを明らかにすることができます。

反応速度定数\(k\)は、(1)式により計算することが可能です。ここで、\(\kappa\)は透過係数と呼ばれ、反応の進行率を示す係数ですが、理論計算による結果を適用した場合、正反応と逆反応を同時に評価できるため、正しい透過係数を反映させることができます。
\[ k = \kappa \cdot \nu \cdot K^\ddagger \tag{1} \] \(\nu\)は、(2)式で表され、\(T\)は温度、\(k_B\)はボルツマン定数、\(h\)はプランク定数です。
\[ \nu = \frac{k_BT}{h} \tag{2} \] \(K^\ddagger\)は反応の平衡定数で、<ケー・ダガー>と発音します。\(K^\ddagger\)は、Eyringの絶対反応速度論式を用いて反応の活性化自由エネルギー\(\Delta G^\ddagger\)より算出することができます。\(R\)は気体定数です。逆反応を考慮する場合は、\(\Delta G^\ddagger\)として、{正反応の\(\Delta G^\ddagger - \Delta G_{rxn}\)}を用います。 \[ K^\ddagger = exp(\frac{-\Delta G^\ddagger}{RT}) \tag{3} \] 反応に関与する基質濃度\([R]\)の時間微小変化\(d[R]\)は、速度定数\(k\)を用いると、(4)式のように書くことができます。
\[ -\frac{d[R]}{dt} = k[R] \tag{4} \] 基質の初濃度\([R]_0\)を用いて(4)式を時間で積分すれば、時間\(t\)における基質濃度\(d[R]\)が計算できます。
\[ \int_{[R]_0}^{[R]} \frac{d[R]}{[R]}dt = -k \int_0^t dt \tag{5} \] \[ \longleftrightarrow [R] = [R]_0 \cdot exp(-kt) \tag{6} \] この計算を系中の全反応(逆反応を含む)・全基質に対して、時間積分しながら実施することで、系中のキネティクス(反応速度)シミュレーションを実施しています。


キネティクス(反応速度)シミュレーション 計算例

反応式
ボランアート錯体を用いたヒドリド還元反応に対して、理論解析を実施し、不斉収率のシミュレーションを実施しました。
キネティクスシミュレーション結果
α体とβ体の活性化エネルギーの差より、α体の生成比が高いことが確認できます。


また、別な反応においては、反応温度に依存して反応時間と生成比が変化している様子(反応の温度依存性)などがシミュレーションできます。

温度依存性(25℃) 温度依存性(250℃)